一般書籍

保田與重郎 文庫

1巻 改版 日本の橋

ギリシア・ローマと日本の橋の比較を論じて世評高い表題作。「誰ケ袖屏風」「木曾冠者」等

「文學界」に掲載された「日本の橋」とその他の著作によって、中村光夫とともに保田が第一回池谷信三郎賞を受けたのは昭和十一年、二十七歳の時だった。同作品を巻頭に「誰ケ袖屏風」ほか四篇を内容とする単行本『日本の橋』が刊行されたのが同年十一月二十一日、奥付の発行日に従えば、『英雄と詩人』に先んじること四日、処女評論集に位置づけられる。

早く二十歳の頃に発想の萌芽が認められる「日本の橋」は、橋の形態や架橋の精神を考察し、日本と西欧の本質的な差異を発見したユニークで類ない文芸評論として、その斬新さに文壇の注目が集まり、読書界に広く迎えられた。

本文庫に収めたのは、同題前著から、大幅に加筆修正した「日本の橋」と「誰ケ袖屏風」のみを残し、「河原操子」「木曾冠者」を新たに加えて昭和十四年に刊行された『改版 日本の橋』である。

ISBNコード
978-4-7868-0022-1
解説
近藤洋太
価格(税込)
792円

2巻 英雄と詩人

昭和11年刊、事実上の第一評論集。ドイツロマン派を中心に西欧文学に触発された文章

昭和十一年十一月に保田與重郎はまず『日本の橋』を四日後に本書を相次いで世に問うたが、両著に収録された作品の執筆時期から云えば、むしろ本書を第一文芸評論集と考えるべきだろう。

 著者はエッセイという形式の意識的な発見に従って、批評家、鑑賞家としての子規の自虐を論じた一文を冒頭におき、時代の内なる浪曼的なるものに興味を示しつつ世界の文芸事情に言及する。とくにシュレーゲルやへルダーリンを中心とするドイツロマン派への関心とイロニーについての考察は独特のものがある。そして収録十二篇の最後にナポレオンの悲劇の意味を考える「セントヘレナ」を配した本書は、若き文芸批評家として出発した著者の資質をよく伝える評論集と言える。

ISBNコード
978-4-7868-0023-8
解説
川村二郎
価格(税込)
1,320円

3巻 戴冠詩人の御一人者

日本武尊の悲劇を詩人の運命として描いた表題作ほか「更級日記」「明治の精神」等10篇

 昭和十三年九月に刊行され、第二回透谷文学賞を受けた本書は、『日本の橋』『英雄と詩人』の二年後に出た三冊目の評論集である。収録作十篇は概ね昭和十年から十三年にかけて発表されたものだが、最も早く書かれた「當麻曼荼羅」は昭和八年の発表になる。因みにこの作は、折口信夫の『死者の書』執筆のきっかけになった。

 前二著が近代と西洋を媒介として文学的な拠点と感性を自ら語るエッセイが多かったのに比して、本書は日本の古典の美と信実を確信する文章を専らとし、世界史の中の「日本」を強く意識する保田二十九歳の決意とともに上梓された事情は「緒言」にみられる通りである。就中、神人分離を背景に、詩人と武人を一身に体現した悲劇的存在としての日本武尊を描いた表題作と、巻末に置かれた「明治の精神」は雑誌発表当時、文壇を刺戟した作である。

ISBNコード
978-4-7868-0024-5
解説
饗庭孝男
価格(税込)
1,089円

4巻 後鳥羽院(増補新版)

後鳥羽院と芭蕉を軸に詩人の系譜を辿り、日本文学の源流と伝統を求めた斬新な国文学史

 日本文芸の歴史を考えるうえで、保田にとって後鳥羽院は動かしがたい核に位置する最重要の詩人だった。

学生時代、芭蕉に教えられ、承久懐古の情に促されるまま隠岐島を旅して以来、数年にわたって書きためていた祈念の文章を『後鳥院』として題して上梓したのは昭和十四年、後鳥羽院七百年祭の歳にあたっていた。その三年後に三篇の新稿を加えた増補新版(本文庫)が刊行されている。

本書は、「英雄と詩人」という著者年来のテーマに従って、文化擁護者としての後鳥羽院の志と事業を欽仰し、院に発し西行から芭蕉へと受け継がれる隠退者の文芸と美観に日本文学の源流と伝統を見出そうとした文学史の試みである。

ISBNコード
978-4-7868-0025-2
解説
井上義夫
価格(税込)
1,045円

5巻 ヱルテルは何故死んだか

ゲーテの青春小説を独自の視点から論じ、西洋近代の本質を鋭く洞察した文明批評の書

 <新ぐろりあ叢書>の一冊として昭和十四年十月に刊行された本書は、同十一年に出た事実上の第一評論集『英雄と詩人』で扱った主題と関心を、さらに発展深化させた稀有の文芸評論の書である。

 資本主義とともに普遍化してゆく西欧近代の発想に早くから疑念を抱いていた保田は、ゲーテの「若きウェルテルの悩み」の背後に、近代の無惨を知って主人公を殺さざるを得なかった作家の明察と、東洋に目を向けようとする芸術家の精神を読み取った。

 戦後になって著者自ら筆を執った「解題」で「私の近代否定論が、どういふ骨格かといふことを、理解して欲しいので、この本を出した」と述べているところからも窺えるように、文学批評の枠を超えた究極の文芸評論、文明論として光彩を放つ異色作である。

ISBNコード
978-4-7868-0026-9
解説
山城むつみ
価格(税込)
792円

6巻 和泉式部私抄

讃仰してやまなかった王朝随一の女流歌人の芸術と性情を伝える歌を抄して註解に及ぶ

 文芸の精華として早くから歌を尊んできた保田にとって、和泉式部は女流歌人中、随一の存在だった。

 王朝の美と悲哀をその一身に体現しつつ歌に託した女性詩人に、著者は讃仰讃辞を惜しまない。即ち、歌を抄し、註を付しながらその性情に想いを馳せ、彼女の身内を流れる涙の川を辿って昇華する魂の行方を追う。

 昭和十一年頃から書き継いでいた和泉式部についての文章を本書のかたちで一本にまとめたのは同十七年四月になってからだった。意を決して本書を世に問うた事情には戦時の文化体制に対する保田の複雑な感慨があった。

 本書上梓の数年後、同題稿については大幅な加筆修正がなされるが、その稿が新版として公刊されたのは昭和四十四年になってからである。本文庫は新版に拠る。

ISBNコード
978-4-7868-0027-6
解説
道浦母都子
価格(税込)
748円

7巻 文學の立場

「文明開化の論理の終焉について」「アジアの廃墟」はじめ昭和15年前後に書かれた文章

 「文明開化の論理の終焉について」「アジアの廢墟」を含む二十六篇を収載した本書は、昭和十四年初から十五年の前半にかけての文章をまとめたものである。刊行にふれた一文で著者は本書の性格を「主に我國の當面してゐる文藝と文明の問題についての主張を述べた(中略)、文學作品集といふよりも、むしろ私の訴へたいものをかいた一般的な評論集」とし、「それだけ自分の作品としては文學的に完全ではないかもしれない」と述べている。

  保田の言う「文學の立場」とは、旧来の教養や文化概念に拠る人たちが政治に対する文学の純粋性・独立性を主張する類の言説とは質を異にし、日本の歴史に対する祈念=詩心が体制に与えるインパクトを信じる立場とも言うべきものである。政治的な状況を考えれば、著者の断念と信念が交錯した時代の書といっていいかもしれない。

ISBNコード
978-4-7868-0028-3
解説
井口時男
価格(税込)
1,045円

8巻 民族と文藝

庶民の本能の裡に受け継がれてきた民族の文学的関心と感動の質を明らめようとした6篇

  『戴冠詩人の御一人者』の緒言で、保田は自らの日本文学史の次なる構想として『後鳥院』の上梓を予告したものだが、昭和十四年に同書を世に問うたとき、集中の一篇「近世の發想について」の末尾には、「文藝と民族―といふやうな考へ方にしても、今までのところは大さう粗末であった」と誌されていた。

 昭和十六年九月に刊行された本書は、前掲文に対する保田の答えであり、自らの文学史を述べるうえで、かりそめにできぬ大切なテーマ―「民族の最高叡智が、庶民の本能の中でうけつがれてきた國民的事實」(はしがき)―の批評化であった。

 プロレタリア文学運動の流れに沿って言及されてきた民衆像とは次元を異にして、日本の文藝における庶民の役割を独自のスタイルで明らめようとした貴重な一冊である。

ISBNコード
4-7868-0029-5
解説
佐伯裕子
価格(税込)
1,089円

9巻 近代の終焉

昭和16年末の刊で、時局に触れて自らの態度所感を陳べた時評的な文章16篇から成る

「近代といふ命目で現代を害してゐる思想の諸傾向を清掃排除する」という志向から書名を定めた、とはしがきに記された本書は、昭和十六年十二月も押し詰まって刊行された評論集である。十九篇の諸作は昭和十五年の夏から十六年の半ばにかけての開戦前夜に書かれ、それぞれに時代の影をしのばせる文章が少なくない。

収載作に「一貫する趣旨は、文化の傳統とその再建について論じ、かたがた時務を述べて 名分を正さうとしたもの」と著者が述べているように、遽しさを加える時代の中で、危機と革新を意識しつつ国の文化と歴史をどう考えようとしたかを示す集といっていい。

因みに、翌十七年初秋、雑誌「文學界」の主催で「近代の超克」座談会が開かれているが、”超克”と”終焉”の立場の差は明らかで、保田はその座談会に殆ど関心を示さなかった。

ISBNコード
4-7868-0030-9
解説
桶谷秀昭
価格(税込)
1,089円

10巻 蒙疆

昭和13年5月から6月にかけて佐藤春夫と朝鮮、北京、満州を旅した折の見聞を誌す

  昭和十一年末に「年の三分の一以上は東京にゐなかつた。これは例年のそのままである」と自ら誌しているように、保田にとって旅は「詩人の生理」に促された生の自然であった。その旅のうちでも最も長期に亘ったのが昭和十三年の大陸行だった。即ち五月二日、佐藤春夫とともに大阪を発った保田は、四十余日を朝鮮、満州、北京から蒙古方面に旅し、帰国後、その折の見聞を「コギト」はじめ諸雑誌に寄稿した。本書はその一連の稿を中心に同年後半に書かれた文章を付して十二月に刊行されたものである。

  前年に蘆溝橋事件が起り、日中が戦争状態にあった日の旅において、北京の街に失望した後に目にした蒙疆地方の雄壮宏漠たる風景は、二十九歳の保田に新しい創造世界の浪曼性を感じさせ、「昭和の精神」を確信させる刺戟に満ちていた。

ISBNコード
978-4-7868-0031-3
解説
谷崎昭男
価格(税込)
1,089円

11巻 芭蕉

著者終生の課題であった芭蕉を、隠遁詩人の系譜を思い、自らの処世を重ねつつ論じる

本書は日本思想家選集(新潮社)の二冊目として、蓮田善明著『本居宣長』に続いて昭和 十八年十月に上梓された。折から芭蕉歿後二百五十年に当り、戦局に対する憂慮を濃くする頃である。保田にとって芭蕉は、家持、後鳥羽院と並んで、なお勝るほどの詩人であり、自身の切実な処世と命に深く関わる先達だった。

「芭蕉が私に後鳥羽院を教へた昭和十年」(昭和十六年「國學の源流」)と誌しているところからも窺えるように、著者の文学史を貫流する隠遁詩人の系譜の最後の人であると同時に、最初の人とも言うべき存在にほかならない。

そうした芭蕉への敬慕と確信の念から書き下ろされた一冊は、知識人の教養的文芸鑑賞とは異なって、文人の存在理由を根底から問うた「思想の書」といってもいい。

ISBNコード
4-7868-0032-5
解説
真鍋呉夫
価格(税込)
1,089円

12巻 萬葉集の精神

詩歌創造の契機と大伴氏の歴史に思いを致し萬葉集成立の経緯事情を明らめんとした大冊

本書は、昭和十五年秋、皇紀二千六百年を祝って東京帝室博物館で開かれた正倉院御物展の拝観をきっかけに想を起し、ほぼ一年で脱稿したのち、同十七年六月に上梓されたA五判五百七十一頁に及ぶ大著である。

即ち、天平文化を仏教文化と見倣す一般の風潮を排し、『萬葉集』の成立事情からその文化を見直すべきだとする天平文化論の性格をも備えた著者の代表作である。

就中、同集の成立に果した大伴家持の役割が、国史の信実を再構築する営為にほかならなかったという一冊の眼目は、何よりも本書の性格を示して、著者の異立を表わしている。

古典が持て囃され、国粋が幅を利かす時局とは別のところで、「今日に於て萬葉集の最後の読者であるかもしれない」と誌す保田は、自らを家持の孤影に重ねていたのだろうか。

ISBNコード
978-4-7868-0033-7
解説
森 朝男
価格(税込)
1,903円

13巻 南山踏雲録

天忠組に加わった国学者伴林光平の遺文に詳細な註を施し、草奔の士を追慕した文を付す

  文久三年(一八六三)八月、尊攘派の草奔たちによる天忠組が大和に挙兵する。だが、間もなく京都の政変によって追われる身となり、十津川、吉野の山中を一ヶ月余敗走の末、主だった者らは討死、刑死という悲劇的な結末を迎えることになった。これに加った中の指導的立場にあった一人で、国学者・歌人の伴林光平が刑死を待つ京都の獄にあって、戦況戦跡を静かに振り返りながら遺した記録が『南山踏雲録』である。

  早くから光平に対する讃仰の念ひとかたならぬものがあった保田は、戦時下に同書の詳細な註釈に取り組んだ。本書はその評註を巻頭に、光平の師伴信友の一書に従いつつ南朝の伝統を回想した「花のなごり」、さらに光平歌集の註解、光平伝、十津川郷士伝を併録して、天忠組義挙の精神史的意義を明らめようとしたものである。

ISBNコード
4-7868-0034-1
解説
高鳥賢司
価格(税込)
1,389円

14巻 鳥見のひかり/天杖記

祭政一致考、事依佐志論、神助説の三部から成る。流行の神道観に抗して古道の恢復を説く

〈祭政一致考〉〈事依佐志論〉〈神助説〉の三部からなる「鳥見のひかり」は、昭和十九年秋から翌二十年春にかけて発表された。神道思想が喧伝される戦時下、しかも国土の戦場化を覚悟しなければならない時期に、産土の地にある鳥見山と国の成り立ちに思いを致し、肇国と祭ごとの真義を明らかにすべく執筆された戦中最後の文章である。

一方、昭和十八年秋から翌早春にかけて草された「天杖記」は、上梓を予定して校正作業に一年を費やしたものの、公刊の機を失って戦後永らくの間、著者の許に蔵されていた作である。多摩に御狩りした明治天皇の行蹟と供奉し奉迎する人たちとのおおらかな交歓を「古代絵巻」さながらの物語として再現した類例のない文章である。

因みに保田は、本文庫の両稿を夫人に託して二十年三月に出征、北支で敗戦を迎えている

ISBNコード
978-4-7868-0035-1
解説
奥西 保
価格(税込)
1,089円

15巻 日本に祈る

世相、言論状況に堪えつつ再び筆を執った保田が昭和25年、戦後初めて世に問うた書

  「とほ世古りし丘にならびて子らの見るゆふ燒け空の中に還りぬ」とは、戦さ破れてのち万感を秘して大陸から故里に戻ってきた三十七歳の保田が、年少の日を思い出でつつ素直な安堵の念を託した一首であろう。やがて百姓に教えられ、農書を頼りに田夫野人の暮しに入った保田だったが、さればこそ文人の矜持とどめがたくなっていった。

 「余ハ再ビ筆ヲ執ツタ。余ノ思想ノ本然ヲ信ズル故ニ」という自序に始まる本書の刊行は昭和二十五年秋だった。同二十二年から二十四年の執筆になる六篇を収載した戦後初の一冊は、様相を一変した言論・人情を前に、戦争を挟んだ己が生の営みを確認し、戦後を生きる姿勢を静かに表明した再出発の書といっていいだろう。中でも戦後初めて公にした文章「みやらびあはれ」は、そのあたりの事情を伝えて自序とともに哀切ですらある

ISBNコード
978-4-7868-0036-8
解説
吉見良三
価格(税込)
1,089円

16巻 現代畸人傳

独自の歴史感、人間観に即して人間とは何かを問い、戦後に再登場を果した記念碑的な書

  戦後、故郷桜井で農に従事したあと、同人誌「祖國」を創刊して殆ど唯一の文章発表の場としてきた保田は、昭和三十三年暮に、京都鳴瀧の地に移り住んだ。橋川文三の「日本浪曼派批判序説」が公刊され、保田與重郎という存在を黙殺無視していいものではない、という空気がジャーナリズムに萌し始めた頃である。

  「新潮」で本書の連載が開始されたのは昭和三十八年二月号、翌年十月に一本として上梓された。文学史的な言い方をすれば、戦後文壇に再登場を果した記念すべき出版だった。

  その内容は、戦後的世相や思考の外に生きる有名無名の人士を懐しみ、その人生と命の在り様に讃嘆感謝の念を惜しまぬ文章から成っている。保田が悦び、信をおいた人たちの列伝に託して、人間の生成に思いを致した本書は、愛惜の情あふるる畸人傳と言えよう。

ISBNコード
978-4-7868-0037-5
解説
松本健一
価格(税込)
1,320円

17巻 長谷寺/山ノ邊の道/京あない/奈良てびき

故里奈良に愛着しつづけ、後年京都に移り住んだ著者が、知悉する風土と故事を案内する

 長谷寺/山ノ邊の道/京あない/奈良てびき

 保田は生国大和を、自らの生と文学の根源をなす揺籃の地として終生慕い続け、語り誌して倦まなかった。就中、産土の地・桜井近在を国の初めの土地、記紀・萬葉の故里として尊び、幼少時からその隅々にまで足を運んで本然の感傷と教養を育んだ。

本書に収めた四篇は、そうした著者のかたみともいうべき、歴史と風土への讃仰に満ちたガイドである。「長谷寺」は開基千三百年に当り、同寺からの慫慂を受けて、書き下ろされたもので、写真を添えて『大和長谷寺』の題で上梓されたのは昭和四十年。萬葉集風土記の趣きを呈する『山ノ邊の道』も同じく写真を付して同四十八年に刊行された。

一方、昭和三十三年から棲家を求めた京都と、離れて思う奈良両都の”伝統と現代”を写した「京あない」「奈良てびき」は昭和三十九年に「藝術新潮」の需めに応じて執筆された作品である。

ISBNコード
4-7868-0038-4
解説
丹治恒次郎
価格(税込)
1,386円

18巻 日本の美術史

自づから表われた造型に美の本態を見、創造する日本人の精神に思いを馳せた比類ない書

  昭和三十九年秋『現代畸人傅』をもって文芸ジャーナリズムに再登場した保田は、一年余の準備期間を経て「藝術新潮」に次なる連載の筆を執った。二十三回に亘るその稿に若干の補筆訂正を加えて、昭和四十三年十二月に刊行したのが本書である。

  もとより通常の日本美術史とは様相を異にして、著者が年少の頃から親しみ、その眼で見、訪ねて感興を禁じ得なかった民族の造型を、創造する人心に思いを馳せ、自らの裡におのずから湧きあがる美感を確信しつつ讃仰した独自の美術史といえよう。たとえば、影響関係や伝播経路に言及すれば事足れりとする研究者的態度や西欧近代の審美観を排して、庭を語り、勾玉の主をしのび、熊野や浄土教美術の貴さを慕う筆致には、美の本態を直感する文人の心映えが横溢し、絶えず生成して止まぬ創造と変革の精神が流れている。

ISBNコード
978-4-7868-0039-9
解説
久世光彦
価格(税込)
1,672円

19巻 日本浪曼派の時代

同人誌「コギト」に拠り、「日本浪曼派」を創刊した頃の交友と、戦前の文学事情を回想する

昭和四十四年十二月、至文堂から刊行された本書は、「国文学解釈と鑑賞」の昭和四十二年四月号から二十六回に亘って連載された稿を一本としたものである。

 大阪高校の級友たちと始めた同人誌「炫火」の後身ともいうべき「コギト」に拠って、本格的な執筆活動を開始した保田は、昭和十年に至って中谷孝雄、亀井勝一郎らとともに「日本浪曼派」を創刊する。

 同誌は後に佐藤春夫、萩原朔太郎、伊東静雄、太宰治なども参加するに及んで一大文学運動の観すら呈した。

 本書は戦争を挾んで三十年後に、当時の交友や文学者の消息、文学界の事情などを回想した書である。 併し単なる文学史の資料や時代の証言の類とは趣きを異にし、自らのめざした文芸の質を振り返って確認しようとした確信的なメモアールと云うべきであろう。

ISBNコード
978-4-7868-0040-5
解説
新保祐司
価格(税込)
1,320円

20巻 日本の文學史

文人の祈念と志に立ち返って、日本文学の血統を明らかにし、真の古典の命を教える通史

  「私は日本の美術史をかきすすんで、近古近世に及んだ時、わが執心の本意をいふのに、文學史でなければならぬと感じたのである。」と「序説」に誌される通り、昭和四十七年五月に刊行された本書は、『日本の美術史』の筆を擱いてから、一年半後の昭和四十四年初夏に稿を起している。

 保田の生涯にわたる文業が、畢竟するところ日本文芸の源流と血統を顕彰し、讃仰感謝することにあったとすれば、即ち本書はその総仕上げと称しうる著作である。

 西欧文芸学とは無縁の筆致をもって、文芸の恢弘と伝承に殉じた文人たちを敬慕しつつ、古人を懐しみ古心に立ち返ろうとした本書は、通常の文学史とは根底から異った述志と祈念の書というべきであろう。なお、著者には戦前の未定稿として『日本文學史大綱』がある。

ISBNコード
978-4-7868-0041-2
解説
古橋信孝
価格(税込)
1,672円

21巻 萬葉集名歌選釋

身に親しい地名の読みこまれた歌や、由縁愛着のある歌を鹿持雅澄の解に学びつつ味わう

 大和桜井に生を亨け、その地で幼少年期を過した保田にとって、万葉集に歌われた土地はさながら我が庭であった。

 歌を頼りに近在を歩き、歩きつつ歌を思い、書を読む明け暮れのなかでこの歌集に親しんだ著者は、「わが今生に於て、萬葉集は絶對である」と言う。

 早くから万葉集の歌と歌人にふれた文章は多いが、戦前を代表する作として『萬葉集の精神 その成立と大伴家持』がある。

 時代状況もあって思想性の濃い同書に比し、晩年に書下ろされた本書は、その題からも窺えるように万葉集の巻を追って愛着する歌を撰し、その註解を専らとしながら、歌集のもつ意味を明らめんとした著作である。

 因みに、本書とほぼ同時期に雑誌連載されながら、著者の急逝によって未完となり、歿後雑誌稿のままに刊行された『わが萬葉集』がある。

ISBNコード
978-4-7868-0042-9
解説
前川佐重郎
価格(税込)
1,320円

22巻 作家論集

敬慕する春夫、朔太郎はじめ伊東静雄、三島由紀夫など同時代の文学者に触れた文章を収録

  日本文学の血統を跡づけようとした保田は、近代文学に関しても、西洋近代に学びつつ東洋の文人たる矜恃を秘めて独自の世界を拓いた人たちにとりわけ信を措いた。

  本書は、そうした著者が深い関心を寄せ、敬愛の念を禁じ得なかった近代の文学者と若干の芸術人について、芸術創造の源をたずね、その業績と人となりを称揚した作家論二十四篇を選んで、新編集のもとに一本としたものである。

  昭和十一年から同四十八年の間に発表された諸篇は、伊東静雄、太宰治、樋口一葉、上田敏、與謝野鉄幹、高山樗牛、島木赤彦、蓮田善明、萩原朔太郎、島崎藤村、折口信夫、中河與一、河井寛次郎、棟方志功、三浦義一、檀一雄、小林秀雄、土井晩翠、柳田国男、川端康成、上村松園、佐藤春夫、三島由紀夫をめぐる人と作品から成る。

ISBNコード
978-4-7868-0043-6
解説
高橋英夫
価格(税込)
1,386円

23巻 戰後隨想集

同人誌への寄稿や一般紙誌の需めに応じた文章など、保田の戦後を窺わせるエッセイ収録

 昭和二十一年五月、出征先の大陸より帰還した保田は、郷里・奈良桜井の実家に家族ともども落ち着き、農耕を専らとする生活を始めた。まだ三十七歳になったばかりだった。 以後保田は、文壇やジャーナリズムの指弾黙殺に堪える一方、慕い集う若い人たちとともに歌会や同人誌を主宰し、再び筆を執るようになる。戦後を生きる文人としての証しを古い日本に託して語り、時として激越な筆致で戦後社会の種々相を悲しむ当時の文章は、静かな自負に満ち、予言的な示唆に富んでいる。

 本書は、昭和二十五年刊の『日本に祈る』以後、五十六年の死までに書かれた文章から、戦後の保田が何を思い、どう生きたかを伝えるに足る三十一篇を選んで新編集した一冊である。就中、昭和四十年の執筆になる「二十年私志」は文人の暮しを述べて、戦後の自画像のごとくである。

ISBNコード
4-7868-0044-9
解説
ヴルピッタ・ロマノ
価格(税込)
1,089円

24巻 木丹木母集

歌を命とし、歌に思いを秘めてきた保田が公刊した唯一の歌集は歌とは何かを問いかける

 保田にとって歌はその生と文業の根底をなす文芸のかたちであり、日本人としての感性と暮しから切り離すことの出来ない日常のリズムであった。

大阪高校時代、『アララギ』に投稿し、同人誌『炫火』に発表して以来、終生作歌を離れたことはなかったといっていい。昭和三十二年からは、保田を慕う人たちの希いに応えて歌の結社「風日社」を興し、歌誌「風日」に拠って自らの信じる歌の姿を教えている。

本歌集は、余りに身に寄り添った営為であっただけに却って歌集の公刊にためらいを感じていた保田が、生涯に一度だけ世に問うことになった一冊である。その後記に、「歌に對する私の思ひは、古の人の心をしたひ、なつかしみ、古心にたちかへりたいと願ふものである」と記されているが、歌のみならず、保田の文業全般に通じる言葉でもあろう。

ISBNコード
978-4-7868-0045-0
解説
岡野弘彦
価格(税込)
748円

25巻 やぽん・まるち―初期文章

昭和7年、東大在学中の保田は大阪高校の同級生と語らって同人誌『コギト』を創刊し、本格的な執筆活動を開始した。20歳代の前半に批評と併行して同誌で試みられた独自の「小説」十篇を収め、保田文学の揺籃期をさぐる。

昭和七年、東大在学中の保田は、大阪高校の同級生、肥下恆夫や田中克己、松下武雄らと語らって同人誌「コギト」を創刊し、その中核メンバーとして本格的な執筆活動を開始した。

同誌において保田は、創刊から四年余、批評と併行して”小説”を作る試みを重ねている。

保田に”小説”の試みを促したのは、既成の小説に対する強い不信だった。そのあたりの事情は、「僕らの若き作家はうまさの誘惑におちてはならない。少くとも彼らはあらゆる小説的規範から絶縁せねばならないのだ」という「文學時評」の揚言からも明らかだろう。

その諸作は、既成の小説を批評し、超えようとした「文章」の試みという意味で、文芸批評の一形態と称すべきかもしれない。

そうした”小説”を録した本書は、保田の本質を窺ううえで貴重な一冊となるに違いない。

ISBNコード
4-7868-0046-5
解説
佐々木幹郎
価格(税込)
1,386円

26巻 日本語録/日本女性語録

心にかかる史上の人物50名を選んで、彼らの遺した短い言葉の深意と拡がりを読み取るという方法で、日 本の歴史に見え隠れする精神の在り様を明らめようとした。『日本語録』 は昭和17年の刊で版を重ねた。後はその女性版。

大著『萬葉集の精神』が上梓された翌月の昭和十七年七月、新潮叢書の第一回配本として出版された『日本語録』は、簡明な言葉のもつ強さと、類書とは異なった文学性が戦時下の民衆の胸底にわだかまっていた憂情を刺戟したのだろう、版を重ねて二年半ほどの間に三万七千部を刷っている。

時代の状況に鑑み、或いは敬慕の情にせかれて選んだ史上の人物五十名が、事に臨んで発した言葉の深意を、国の歴史と民族の精神性という観点から説き明かそうとした本書は、著者の文学観・歴史観を一般人に理解しやすいスタイルで書下した国史読本と言っていい。

「日本女性語録」は、「新女苑」昭和十九年一月号から七回に亘って連載されたもので、女性のまごころ、優美で強い心もちの在り様を、主に上代女性の歌に尋ねた稿である。

ISBNコード
4-7868-0047-3
解説
大竹史也
価格(税込)
1,386円

27巻 校註 祝詞

昭和19年4月、私家版として書き下しで上梓された。戦時下にあって真の古学顕揚のために、吉田神学の亜流たる神道思想を一排せんとして執筆された本書は、『鳥見のひかり』 と併せて保田の神道観を知るための稀覯の書である。

七月に『皇臣傅』、九月に『機織る少女』、十月に『芭蕉』、十一月に『南山踏雲録』を刊行した保田の昭和十八年は、戦局また容易ならざる遽しさのうちに、期するものを秘めた年でもあった。

『南山踏雲録』の稿を脱するや、時を措かずして取り組んだ祝詞校註の業が『校註 祝詞 全』と自筆の題簽入りで少部数上梓されたのは翌十九年四月、辛うじて印刷に付し、一本の体裁を整えながらも、自ら編輯発行を兼ねた簡素な私家版だった。

「吉田神学の亞流たるその頃の所謂神道思想」即ち国家神道史観を排し、”日本”という国の成り立ちと本姿を確認するために執筆された本書は、同年後半から翌二十年にかけて発表された「鳥見のひかり」の先蹤をなすとともに、同稿と不可分の営為である。

ISBNコード
978-4-7868-0048-1
解説
高藤冬武
価格(税込)
1,133円

28巻 絶対平和論/明治維新とアジアの革命

敗戦後、左翼の平和議論が猖獗を極める中で、近代の崩壊を再確認した保田は、「東洋」の恢復を措いて平和 はありえないと思い定めた。後著もその延長線上にある作品で、ともに保田のアジア論、アジア文明論といっていい。

敗戦後、北支から生還し、郷里で農に従う日々を過していた保田が、若い同士とともに言論結社「まさき会會祖國社」を興し、雑誌「祖國」を創刊したのは昭和二十四年九月だった。

『絶対平和論』は、翌二十五年同誌に掲載された無署名稿に前記・後記を付して年末に刊行されたものである。一本のかたちで公刊するに際しても著者名はなく、「著作兼發行者祖國社」とのみ記されているのは、著者が公職追放中という事情による。 

左翼的な政治平和論議が横行支配する時代に抗して、近代戦に敗れた意味を反省し、平和の礎は東洋的生産生活と無抵抗精神への回帰にしかないと問答体で訴えた文章である。

併録する「明治維新とアジアの革命」は、維新の精神がアジアに及ぼした影響を論じながら、自律すべきアジア像を提示した文明論・アジア論で、昭和三十年の稿を初出とする。

ISBNコード
978-4-7868-0049-8
解説
荒川洋治
価格(税込)
1,386円

29巻 祖國正論Ⅰ

戦後、国の混乱と人心の荒廃を眼のあたりにした保田は、昭和25年1月から同29年まで、主宰誌「祖國」に時局時事から文化文明に及ぶ関心を託して、時として激しい文章を無署名で書き継いだ。戦後を生き る文人としての覚悟を揚言した二千数百枚に及ぶ同文章から、とくに今日の日本人に読んでもらいたい千数百枚を選んで2冊に収録する。

終戦後の混乱を憂え、国の行末に危惧を抱いた青年たちが、かねてから師と慕う保田與重郎のもとに集って言論結社<まさき會祖國社>を興したのが昭和二十四年、同九月には同社を発行所として同人誌「祖國」が創刊された。以後昭和三十年二月号の終刊まで、同誌は保田の主要な著作発表の舞台となる。

執筆者名のない「祖國正論」は同二十五年新年号から連載が始まって、時々の休載をはさみながら昭和二十九年四月号まで続き、一貫して<まさき會祖國社>社説の役割を担った。

折から公職追放中だった保田は、署名こそ控えたが、当時の時局や社会・人情に関して真率な反戦後的言論を展開しながら「祖國正論」を書き継ぎ、生き残った文人としての責めを果すとともに矜恃を示した。本書Ⅰは二十六年十二月号までの同稿から選んで一冊とした。

ISBNコード
4-7868-0050-3(Ⅰ)
解説
坪内祐三
価格(税込)
1,485円

30巻 祖國正論Ⅱ

戦後、国の混乱と人心の荒廃を眼のあたりにした保田は、昭和25年1月から同29年まで、主宰誌「祖國」に時局時事から文化文明に及ぶ関心を託して、時として激しい文章を無署名で書き継いだ。戦後を生き る文人としての覚悟を揚言した二千数百枚に及ぶ同文章から、とくに今日の日本人に読んでもらいたい千数百枚を選んで2冊に収録する。

本書Ⅱは、前冊に続いて昭和二十七年一月号以降、同二十九年四月号までの「祖國正論」から選んで一冊とした。同じく雑誌発表時は無署名である。同人誌「祖國」は当初五名によって創められ、その後十五名の同人を擁するに至るが、保田與重郎は同人として名を連ねることなく、終始実質的な主宰執筆者の立場を守った。

同誌は、当時のジャーナリズムから黙殺されていた保田にとって大切な執筆の場であったと同時に、阿諛追従に走るインテリ文化人や曲学阿世の徒が横行する戦後的状況の中で、真の言論とは何かを、保田自身、身をもって体現した稀有の公器でもあった。その意味で「祖國正論」は、著者戦後の活動を多面的かつ象徴的に示した営為と言えよう。

因みに、本文庫にⅠⅡと分かって編み収めた同稿は、「祖國」誌掲載分のほぼ六割にあたる。

ISBNコード
4-7868-0051-1(Ⅱ)
解説
佐伯彰一
価格(税込)
1,485円

31巻 近畿御巡幸記

昭和26年秋、京都、滋賀、奈良、三重への御巡幸に際し、それぞれの地元で発行された新聞の関連記事を丹念に集めて紹介するという手法を用いて、行路となった土地土地の奉迎感動の様を謹記した貴重な報告の書。

終戦後の復興期、”人間”として全国を御幸された昭和天皇は、昭和二十六年秋、最後に残されていた近畿四府県の御巡幸に出かけられた。

本書は、この行幸に際して思い晴れるもののあった保田が、それぞれの行幸地で発行された新聞の関連記事を丹念に集め、それらの記事を紹介、批評しつつ、御巡幸を活写謹記したドキュメンタルな私記である。行路となった土地土地の奉迎感動の様を伝えるとともに、新聞記事という文章に見え隠れする清醇真摯な文芸の発露をも認めようとした行文は、稀有な報告文学として保田の文業の中でも特別な位置を占める一書であろう。

戦後の所謂”人間天皇”は、「天皇は萬葉の昔、いなもつと上古から人間であらせ給うた」と公言する保田にとって無縁の概念であり、政治の歪曲でしかなかった。

ISBNコード
4-7868-0052-X
解説
神谷忠孝
価格(税込)
1,496円

32巻 述史新論

保田の死後に発見され、『日本史新論』の題で昭和59年に公刊された本書は、原稿に「述史新論」と誌されていた。昭和36年の作で、60年安保が契機となって起筆されたものと思われ、日本の理想と使命を説き明かそうとしている。

昭和五十六年十月四日、保田與重郎は数え年七十二歳で歿した。その生涯の長短は別として、十代の後半から自らの思いと信実をひたすら文章に託し、生活のすべてに伝統と美を配した五十余年は、文人批評家としての生を全うしたと言っていいだろう。

本書は、歿後の昭和五十八年六月末、京都の自邸書庫から未発表の原稿が見出され、翌年十月に新潮社から『日本史新論』と題されて公刊されたものである。六〇年安保に揺れる世情に触発され、昭和三十五年から翌年にかけて発意、執筆された文章でありながら、当時の政治状況に依った時務論ではなく、この国の成り立ちと生成を説き明かすことによって国の行末に警鐘を鳴らさんとした、抵抗の文芸にほかならない。

なお、題号は新潮社版に拠らず、著者の記す原題に戻した講談社版全集に従った。

ISBNコード
4-7868-0053-8
解説
富岡幸一郎
価格(税込)
1,386円

好学出版

思考力検定

日本教材文化研究財団